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【『ノモンハン : 見下ろす神、地を這う神』 第七十六回】 [ノモンハン考]

☆では、『ノモンハン :地を這う神々の境地』です。

   ◇   ◇

 第五柱   陸軍軍曹 <岩佐 建代>

     「荒熊勇士の突撃」

 第一分隊長岩佐軍曹は、ふだんから、「荒熊軍曹」の名をほしいままにしてゐた。

「隊長、あの敵をやつつけるのは、どうか自分にやらせて下さい!」

 軍曹が、竹を割つたやうな口調で、かう申し出ると、隊長は、会心の微笑を顔にうかべ、注意してやれと許すのだつた。

 八月二十二日のことである。敵は早朝から砲撃を開始し、フイ高地一帯は黒煙天に冲した。敵は、これに乗じ、連日の敗戦を挽回せんものと、戦車を先に立てて逆襲して来た。わが軍は、これに反撃を加え、苦もなく撃退したのであるが、砲撃は相変わらず猛烈だ。

 正午を僅かばかり過ぎた頃のことである。わが第一分隊は、陣地の前方約八十米の稜線上に敵砲兵の観測班が侵入して来たのを発見した。

 分隊長岩佐軍曹は、これを隊長に報告、この敵の殲滅を願ひ出たのであつた。

 岩佐軍曹は、さすがに必勝の色を面に現はし、部下数人と共に、

「では、行つて参ります。骨だけはお願ひしますぞ……」

 と、うち笑ひながら、硝煙けむる中にとび出し、地を這ひながら、敵に近迫して行つた。

 いよいよ稜線の下にせまつた。

「ぬかるなよ!」

「心得たり!」

 と、眼と眼の合図!

 軍曹を先頭に、一行は、ぱつと姿を現はすと、地を蹴つて群がる敵中へをどりこんだ。敵は不意をくらつてあわてふためいたが、小人数を見ると立ち直り、銃剣をふるつて反抗した。

 軍曹は真先に立つて奮戦力闘、部下も、日頃の銃剣術の腕前を見せようと、右へ左へ突き伏せる。この勢ひに敵はどつとくづれ立ち、手榴弾を投げて逃げ始めた。

「それツ! 一人も逃がすな」

 軍曹が後を追へば、瞬くや手榴弾が身近に炸裂して右腕に重傷を負うた。しかしこれに屈する軍曹ではなかつた。部下を叱咤激励して逃げる敵を追ひつめ、遂に一人も残さず殲滅して終わつた。しかも、自分が重傷を負つただけで、部下の一人も傷けず悠々凱歌を奏して帰つて来た。

 そしておのが重傷は見むきもせず、逐一状況を報告したとはどこまで豪胆な勇士であらう!

   ◇   ◇

・・・死ぬかも知れない境遇で、それを恐れずに戦う戦士たち・・・。

「恐れずに」と書いたが、私は、兵士の一部は、戦いを全く恐れていなかったのだと思っている。

その信念を生むものは、以下に尽きよう。

     日々の鍛錬。

それが充分にあるので、自分に命の危険がなく戦えることを信じられるのだろう。

私は、この歳になって、「自信」の意味が何となく分かるのだ。

優秀な人間は、それを中学生・高校生の時に、学問や運動において会得しているようだ。

私は、遅ればせながら、三十路を過ぎた頃に、やっと人生の自信がついた。

それが、生涯、身につかない者もいるのだろう。

                                           (2008/07/30)
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